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会長挨拶

この度、図らずも日中社会学会の会長に選出され、総会にて承認いただきました西原和久です。会長就任の話が来たとき、私自身の研究のことや年齢のこともあり、引き受けするかどうか迷いましたが、これまで日中社会学会および中国の社会学研究者には大変お世話になりましたので、ご恩返しのつもりで引き受けることにいたしました。

私は、年上のきょうだいがみな旧満州生まれではありますが、中国社会の研究者ではありません。ただ、これまで中国からの若い研修生・技能実習生の研究に取り組んだ経験があり、また、南京大学や北京外国語大学などで客員教授として社会学を教えた経験もあり、さらにかつての中国人留学生で現在中国において教壇に立っている教え子たちも複数おります。

また、学術交流の面では、21世紀に入ってからは「東アジア社会学研究者ネットワーク」のメンバー、およびそれを土台とした「東アジア社会学会」の理事として、また日本社会学会の国際交流委員長や国際社会学会の横浜大会の組織メンバーとして日中学術交流にも注力し、さらに中国社会科学院、吉林大学、復旦大学、上海大学、浙江大学、香港大学などでも中国の研究者たちと親しく交流する機会を持ってきました。そうした関係で、当時の中国社会学会会長・李培林教授の邦訳の監修者となったり、中国での講演を含む私の論稿も複数が中国語に翻訳されて刊行されていたりします。昨今の日中関係のなかで、「学術交流」を中心に、私の言葉では(国際交流ならぬ)人と人との「人際(にんさい)」交流をより活性化させる仕事ならば、私がやれること・やらなければならないことだと考え、会長を引き受けることとしました。

そこで会長としての所信の第1を述べるにあたり、あらためて日中社会学会の会則をチェックしますと、会則の第1条2には、「本会は、日中両国の社会学会の交流を図り、両国の社会学の発展に寄与することを目的とする」とあります。まさに、私がやりたいことは、この目的に的確に表現されております。現在、私は平和社会学研究会を立ち上げ、平和社会学の構築に向けて活動をしております。日中のみならず、トランスナショナルな人際交流は、「平和」であることが大前提です。そうした視点からこのホームページにある歴代の会長の挨拶を振り返ってみると、かつての首藤明和会長の挨拶に、先達の志は「学術交流を通じた日本と中国の相互理解の深化であり、ひいては世界平和の構築に向けて努力を惜しまない姿」であったといった一節や、「日中社会学会とは、日中相互理解と世界平和実現のために、先達が遺された貴重なプラットホームである」といった一節が記されております。私は、そうした先達の言葉を大切にし、会長としての私の職務とする所存です。それが私の所信表明の第1です。

そこで、第2の所信表明ですが、首藤元会長のいう「先達」の1人は、故中村則広元会長が想定されていると思われます。私は、中村元会長とは中国や日本でしばしばお酒も共にする関係でありましたが、記憶に残っている重要なことは、筑波大学の大塚キャンパスで理事会があった際に、いわゆる第2学会誌の発刊に関与したことです。種々議論があった中で、私が、では『21世紀東アジア社会学』という学会誌名にしてはどうかと提案し、中村元会長もすぐに同意されてこの学会誌名が決定され、紆余曲折はありながらも現在は12号まで来ています。この第2学会誌も、陳立行先生、首藤先生、そして南裕子先生などの私が直接知りえている会長経験者の大変な尽力で、東アジアのリージョンだけでなく、グローバルな視野を持った学会誌に育ってきています。私自身は日中での講演や論稿で「東アジア共同体」論をしばしば語っていますが、この議論はいわば「平和な世界社会」実現への一つの道です。だからこそ、今後とも日中社会学会会員の研究の発展をより一層図るべく、今年度に第30号となる『日中社会学研究』とともに、この『21世紀東アジア社会学』も大切にしていきたいと考えています。これが、私の第2の所信表明です。

少し長くなりましたが、最後に3点目として重要なもう1点だけ記させていただきたいと思います。日中社会学会は、中国社会の研究や日本社会の研究を基礎とするものであることは間違いありませんが、私としてはそれと同等の重みをもつものとして、トランスナショナルな「日中交流」全体の過去・現在・未来に関する研究も重視したいと考えております。日中関係が政治経済的にも問題含みとなっている現在だからこそ、日常生活を営む人びとの生活世界のレベルで積上げられてきた「日中交流」の歴史的現在をしっかりと捉え直し、未来に向けた新たな日中人際交流の歴史の創造に関わりたいと考えております。そのためには、特に日中の若い世代に期待するところが大です。若手を含む研究会・研究集会を活性化し、定期的な研究集会と年1回の研究大会を連動させ、日中間での「人際交流」の捉え直しも進めていきたいと考えております。これが第3の所信表明です。

いまや、中国からの留学生や働き手さらには中国人国際結婚移住者などの研究の他にも、日本における中国人集住地やいわゆる中華街の研究など、日本国内の生活世界レベルでのトランスナショナルな日中交流の研究テーマには事欠きません。それだけ、日中交流は生活世界レベルで深まっているのです。そこに焦点を合わせる研究は、交流がさらに活性化されるであろうポスト・コロナ時代に向けて、とても重要なものだと考えております。

微力ながら会長として、日中社会学会における――以上を要約すれば――③若い世代を巻き込んだ会員の日中交流研究を含めた研究の活性化と、②日中を中心としつつも東アジアや世界を志向する研究、そして➀それらの研究を通した日中の相互理解や、ひいては世界平和に貢献する方向性を重要視していきたいと考えています。この点を再確認して、長くなりましたが私の挨拶とさせていただきます。力を合わせて、一緒に日中・中日の社会学研究を推し進めていきましょう。

会長挨拶

 日中社会学会会長 南 裕子(一橋大学

このたび第8代の日中社会学会会長を務めさせていただくこととなりました。昨年度までは庶務担当理事(事務局)を担当しており、決してよいことではありませんが、学会運営にも随分長くかかわってきたことになります。ただ、事務局としては、学会のルーティン化した活動をいかにこなすかといういわば目先のことに追われてしまっていた感があります。それは、近年、本学会が「持続可能な学会運営」という大きな課題に直面しているためです。

 私自身もそうですが、学会理事の方々も本務校での様々な業務が増える一方で、意欲はあっても学会のための時間を捻出することが容易ではない状況にあります。しかし、そうした中で、選出されたことに対して高い責任感を以て学会運営に携わってくださっています。私自身が学会にコミットしてきた最大の理由は、院生時代に入会して今日まで、日中学会で多くを学び、研究仲間と出会えたことへのいわば恩返しのような思いです。

  しかし、恩や責任感に依存するだけでは、組織は限界を迎えるでしょう。何か新しい創造ができる場として、役員も含めた各会員が日中社会学会にかかわることを楽しみ、意義を感じられるよう、学会を活性化していく必要性を、現在ますます強く感じています。「持続可能な学会運営」は依然として課題ではありますが、それ以上に、何のために持続可能性を追求するのかを見失わぬよう、あらためて気を引き締めて、会長の職にあたらせていただく所存です。

  また、昨今、中国をめぐっては、国際関係やその国内政治(統治)をめぐり、我々研究者のスタンスをも問われるような厳しい状況も確かに存在しています。しかし、ここで我々の原点に立ち返ってみたいと思います。それは会則の第2条にある「本会は、日中両国の社会学界の交流を図り、両国の社会学の発展に寄与することを目的とする」ことです。

 私は、この「交流」の前提として、日中社会学会会員には、次のような共通する中国研究の姿勢があると理解しています。それは、出発点となる問題意識はさまざまですが、中国社会に深く分け入り、観察し、中国の人々と対話を重ねながら、自身の中国理解の枠組みを構築し、さらには現代社会への省察を深めようともがいていることです。そして「交流」とは、このようにして得られた研究成果について、学会メンバーのみならず、中国の社会学研究者とも真摯に学術的な意見を交わしあうことです。そうすることによって、議論に参加する人々が、それぞれに、問題をより的確に把握、分析する力を高めることができ、自らを相対化する新しい気付きを得られます。そうして得られたものを、次には、教育や出版の形で、学会の外に向けて発信することが目指されるのです。

 会則の文面では、「両国」とありますが、排他的になる必要はありません。会費を納入してメンバーとなる組織ではありますが、一方で、これまでのように、目的を共有する人々による境界の曖昧な開かれたコミュニティでもあり続けたいと思います。

 以上のような思い・理念を、本学会の各種活動において実現していきたいと考えています。一言でいえば、研究の場として、その土俵の充実であり、それは、前会長である首藤明和先生が目指されていた方向性の継続であると認識しています。

  具体的には、以下の3点にまず重点的に取り組みたいと考えています。

 ①学会誌『日中社会学研究』の特集、そして学会大会シンポジウムの企画の一層の充実のための方策の検討。担当理事間の連携等の組織的な問題と共に、学会としての研究活動の強化が必要とされます。

 ②研究会活動の活性化。上記①につながるよう、学会として戦略的に研究会活動をより活発に展開することが求められると考えます。また、若手研究者育成のための研究会開催や会員の研究プロジェクトの成果発表のプラットフォームとしての機能を本学会が持つことができればと思います。

 ③この数年で中日社会学会専門委員会との学術交流が定着してきました。専門委員会の方々にも上記①や②に参画していただくようなことも含めて、今後の交流を一層強化したいと考えています。

 日中社会学会という組織は、他学会と比較すると、会員同士がフラットな関係にあり、モノが言いやすい、議論をしやすい特徴があるように思っています。会員の皆さんにおかれましても、入会履歴の長短にかかわらず、いろいろなアイディア、企画を出していただき、そしてその実現のために共に汗を流していただければ大変嬉しく存じます。 学会運営へのご協力のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。 

会長挨拶

日中社会学会会長 首藤 明和(長崎大学)

 2013年6月、第7代の日中社会学会会長を拝命いたしました。先人の遺志を引継ぎ、今日の置かれた状況を把握し、問題意識を煮詰めつつ課題に取り組み、そして今後に向けた展望を紡ぎ出していかなければなりません。この重責を担うにあたって身の引き締まる思いをいたしております。以下、会長としての所信を述べさせていただきます。
 近年、日本と中国を取り巻く状況がさまざまな面で課題を抱えていることについてはご承知の通りです。そのなかで、日中社会学会が取組むべき課題が山積していることは言うまでもありません。これら課題をシンプルかつ骨太に捉えてみますと、次のように言えるのではないかと考えます。
 まず何よりも、先達が日中社会学会に遺された志を忘れてはなりません。それは学術交流を通じた日本と中国の相互理解の深化であり、ひいては世界平和の構築に向けて努力
を惜しまない姿です。近い将来、世界はひとりひとり誰にたいしても居場所があるような社会になることが望まれます。人が人を支配することを当たり前と思っているような、そしてそのことで生じる諸矛盾に目を背けるような、そうした現状から脱却する必要があります。日中社会学会とは、日中相互理解と世界平和実現のために、先達が遺された貴重なプラットホームであることを、今一度、噛み締めておきたいと思います。
 次に、日中社会学会内部の現実的な変化以上に、社会そのものの変化が速く広く深く進行しています。ここから生じている本学会の課題とは、次のように捉えることができるでしょう。すなわち、本来、学会とは、人材の育成と新しい価値の創出にかかわることを根本としますが、この本義自体に懐疑の目が向けられたり等閑にされたりする事態が生じているということです。言うまでもありませんが、私たちは一生にわたって“学び続ける存在”です。人材の育成とは、近代市民社会のなかで制度化された「職業」(賃金労働)にだけかかわるものではなく、誰にとっても、この世で授かった生とその使命を終えるまで、あらゆる営みにかかわってずっと続くものです。また、価値の創出では、私たちの日常に纏わりつく観念をいったんは宙づりにして吟味する必要があり、場合によっては世間の喧噪から離れる時間やそのきっかけが必要です。すなわち、人材育成も価値創造も、本質的に時間を要するものであり、一定の基準によって算定される生産性や効率とは、しばしば鋭く対立したりします。しかし、目に見える成果を重視する昨今の風潮においては、こうした学会の根源的な営みそのものに懐疑の目が向けらたりしています。あるいは学会自らがその存立基盤を削ってしまうような疑心暗鬼や自縄自縛に陥る危険を孕んでいます。日中社会学会では、こうした事態に対して、何らかの問題意識を共有する必要があると私は考えています。
 これら大きな課題、すなわち日中相互理解と世界平和構築、そして人材育成と価値創造に対しまして、日中社会学会としましては、やはり学術交流のさらなる充実に努めるなかで応えていきたいと考えます。「土俵の充実」です。既存の学会事業との有機的連携を図りつつ、いくつかの新規事業への取り組みを実施します。
 
(1) 機関誌『21世紀東アジア社会学』のグローバル化
 本学会では『日中社会学研究』と『21世紀東アジア社会学』のふたつの機関誌を発行しています。『日中社会学研究』は創刊以来20年余りが経過しており、全国規模学会誌として、大学や研究機関等で一定の評価を受けるに至っております。今後もまた、研究大会シンポジウムなどとの連携のなかで特集の充実に努めるなど、誌面のさらなる充実を目指してまいります。
 『日中社会学研究』は既にある程度の伝統を有しているがゆえに、学術的な規範と風格を備えることで社会的あるいは会員諸氏からの期待に応える必要があります。一方、後者の『21世紀東アジア社会学』は本年3月に第6号が刊行したばかりで、学会誌としては新米の部類に入ります。それゆえ、風格と言えるだけのものが備わっているかといえばまだ心許なく、『日中社会学研究』に比して安定感に欠けるきらいもあるかと存じます。しかし、このことと表裏一体なのですが、『21世紀東アジア社会学』は、本学会を取り巻く厳しい環境に即応しながら展望を切り開いていくだけの斬新性や敏捷性を有しています。こうした特徴を、日中社会学会の継続的発展の駆動力として、私たちは戦略的に活用しなければなりません。『21世紀東アジア社会学』を舞台に、日中社会学会での学術交流が、とりもなおさず世界の関心を惹きつける研究内容を有し、世界へ開かれた知的交流の場となることが望まれます。
では、具体的にどのような方途が考えられるのでしょうか。現在、私が考えている『21世紀東アジア社会学』の改革案は以下のものです。①Electronic Library service によるPDFオープンアクセスを推進し、掲載論文に対する全世界からのアクセス利便性の向上を図ります。②本誌の使用言語が多言語であることの独自性をさらに活かした誌面づくりをおこないます。③学会員からはもちろん、国内外の非会員からも論文を公募します(非学会員の投稿にあたっては、論文掲載料を徴収することを検討します)。④査読システムをグローバル化し、学会内外、国内外の研究者に査読を依頼します。⑤基本的に電子ジャーナルとしての発行ですが、別途、冊子版の印刷については、受益者負担のオンデマンドとします(本学会の予算は年間70万円程度と限りがあるからです。オンデマンドの場合、1冊の単価は千数百円くらいになると思います)。⑥日中社会学会が主催あるいは共催する国際シンポジウムや若手研究者の国際研究会、あるいは国内での研究集会の成果などを積極的に取り上げてまいります。⑦後述しますように、「香港アジア社会学会」との学術交流を深めるなかで、その成果を誌面づくりにも生かしていきます。
 
(2) 「香港アジア研究学会」との学術交流の促進
 昨年、日中社会学会は香港アジア研究学会(The Asian Studies Association of Hong Kong : ASAHK,現会長は日中社会学会員でもある香港大学・王向華博士)と学術交流協定を結びました。その結果、日中社会学会は香港アジア研究学会で初のInstitutional Memberとなり、香港アジア研究学会が今後発行を予定している英文ジャーナルへの投稿資格と、年次大会への参加資格を得ることになりました。2014年3月には第9回研究大会が香港大学で開催され、日中社会学会は研究担当理事が中心となってふたつのパネルを設置し、活発な議論をおこないました。また10名あまりの会員がそれぞれの部会で報告をおこないました。香港アジア研究学会との交流協定締結により、今後、継続的かつ安定して海外での学会発表や英文ジャーナル投稿などの機会を日中社会学会員に提供できます。また、上述の『21世紀東アジア社会学』の誌面づくりや査読システムの構築においても、香港アジア研究学会との連携を活かしてまいります。
 
(3)エリア研究会の活性化(海外開催を含む)
 研究大会では報告時間や質疑応答などで時間に制限があり、議論が煮詰まらず、物足りなさを感じることもあります。一方、エリア研究会では、若手、中堅、シニアと世代を超えて、それぞれの研究段階を尊重するなかで、報告と議論に時間を割くことができます。また研究交流の基盤的なネットワークを構築するにあたって、大きな機会を提供してくれます。今後、日中社会学会では、九州や北海道など、これまでエリア研究会が開催されなかった国内地域はもとより、香港、北京、上海など海外エリアでも積極的に研究会を開催します。

(4)「日中社会学叢書」(第2期)の企画と刊行に向けて
 ご承知のように、2008年から10年にかけて、日中社会学会は「日中社会学叢書」全7巻を明石書店より刊行しました。中国社会学研究の最前線を幅広くカバーするとともに、世代を超えた多彩な執筆陣がそれぞれの問題意識と理論・方法に基づき、中国社会を多角的に分析し、新たな知見を数多く提起しました。その後の中国研究に対する課題と展望を指し示すとともに、中国研究に従事するうえで欠かせない問題群や分析枠組みの共有にも貢献してきました。この叢書では多くの大学院生を抜擢したことにも特徴がありました。今日のキャリアに至る礎を若手研究者に提供できたことは、常に未来志向を掲げる日中社会学会にとってその本領を発揮するものであり、たいへん大きな意味を持つものでした。
さて、今日より、「日中社会学叢書」第二弾の企画に入ります。今回は、前回に採用した編著形式ではなく、むしろ、単著(あるいは場合によっては“完全な意味での共著”も含む)によるシリーズを考えています。たいへん時間を要する事業ではありますが、前回の叢書がそうであったように、私たちは常に挑戦していく姿勢を持たなければなりません。今後、編集委員会を立ち上げるなかで叢書の理念、目的、方法、執筆者選考基準などを吟味し、適切な時期に原稿の公募を開始します。会員諸氏には、今後、折に触れてご報告、ご相談をしてまいります。

 以上、日中社会学会が引き続き取り組まなければならない大きな課題、すなわち日中相互理解と世界平和構築、人材育成と価値創造に対しまして、会長としての所信を、多少具体的に述べさせていただきました。トランスナショナルに横たわるさまざまなリスク、課題に対して、権力ではなく、貨幣ではなく、ましてや暴力ではなく、むしろ学術をもって立ち向かうためには、私自身、退路を断ち、有言実行あるのみと、自らを奮い立たせております。相互に認め合い支え合うなかで、誰に対しても居場所があるような開かれた世界になるよう、その貴重な実践の場として、日中社会学会のさらなる発展に努めてまいります。今後もまた、会員諸氏のご理解ご協力をたまわりますようお願い申し上げます。そして皆様の更なる積極的なご参加をお待ちしております。

Greetings from the President of JCSS

Chen Lixing (Kwansei Gakuin University)

The 21st century is said to be the century of Asia. And as a big country in Asia, China, which experienced the complicated social structural transformation from semi-federal, semi-colonial social system to socialist society, is now facing new challenges to integrate itself into the globalized market-oriented economic system. Getting into the 21st century, accompanying the growing international attention to the rapid change in the country, China is undergoing deep magma activity and is on a possible paradigm shift of the society. But how and in what direction will its shift be? This has been not only a significant subject in social science studies in China, but also a deep academic concern on a global level. In this sense, Japan-China Sociological Society (JCSS) is at its new start in the history of research.

I came to Japan in 1983 as one of the first generation of foreign students from China to study sociology after China started its reform and opening policy. I grew together with and witnessed the establishment and the development of Japan-China Sociological Society. I still remember the three strategic objectives stressed in the opening remarks at the first conference of its establishment of JCSS by the first president, the late professor Fukutake Tadashi (1917-89): 1) to carry out cutting-edge field research on social changes occurring in China; 2) to cultivate young researchers in sociological studies; 3) to promote academic exchanges between Japan and China.

Today we can say more than 20 years practice has proved that every generation of JCSS leaders, researchers and scholars have been faithfully keeping the spirit of the first president, and now it is time to score the harvest of the JCSS. In 2009, 『Japan-China Sociological Studies Series』 (Total 7 Volumes )contributed by the members of JCSS and the JCSS related scholars was published by Akashi Shyoten ( Akashi Publication). We know for sure that there are still some disputable points in the publication, but we believe the publication is no doubt the best committed practice of our adherence to the three spirits and it will be the landmark of the new start of the JCSS development in the 21st century. Taking this opportunity, I would like to extend my sincere grateful thoughts to the late Professor Fukutake Tadashi, who established JCSS, the president of each generation, Professor Aoi Kazuo,Professor Miyagi Hiroshi, Professor Nebashi Shoichi, Professor Nakamura Norihiro,and all the devoted board directors, secretaries as well as all the members who actively participated and strongly supported the JCSS activities.

The research achievement in the more than two decades has brought JCSS a strong reputation for its commitment to the three spiritual objectives, and JCSS has established a promoting positive research network, through which many young researchers have got valuable chances to sharpen their edges in sociological research rooted in the field work and many sociologists have developed positive link of exchange and greater interactions in their academic researches between Japan and China. Today JCSS, we maybe can say, has grown up and got into its energetic twenties’ from its teenage in the transitional historical period when Japan has experienced the modernization in the 20th century and China is experiencing the new rise in the 21st century with various social phenomena for us to look into and I believe this will be a spur for the new development of JCSS. Tracing back to the history, social sciences have been being developed on the basis of the changing social phenomena. Many masters, Karl Marx, Emile Durkheim, Max Weber in social sciences established themselves in the period when human society underwent radical changes initiated by the Industrial Revolution in Europe in the first half of the 19th century and the rise of new continent of America in the second half of 19th century. From now on, regarding the overall development of Asia, explaining why the social phenomena in the region are different from those in the European society should be directly related to the new development of social sciences in the 21st century.

Therefore I feel it an obligation as the president of JCSS to promote the research with originality in the unfolding contemporary world combined with persistence of the three core spiritual traditions of JCSS and I would call for joint endeavor of all members to further pursue interdisciplinary theoretical approach on studying both the exclusive and the inclusive aspects of the sociological changes in Japan, China and other countries within the Asian society. I am looking forward to the new contribution from JCSS to the new progress of social science in the 21st century.

As the first president of JCSS of Chinese origin, I strongly feel the historical responsibility and I will work with a devoted effort to accomplish our objectives with the support of all the members of JCSS.

日中社会学会会長の挨拶

会長挨拶
会長:陳立行 (関西学院大学)

21世紀はアジアの世界になると言われている。アジアの大国としての中国は、20世紀から100年の間、封建体制、半植民地統治、社会主義体制など複雑な体験を背負いながら、今日、グローバル化した市場経済システムに組み込まれ、大きな転機に直面している。21世紀に入ってから中国では、目に見えるほどの日進月歩の変化に伴い、社会の深層ではマグマ活動が活発化している。中国社会は如何に、どの方向へと変化しているのか。その変化のメカニズムの解明は、中国を超え、全世界の社会科学の重大な課題になることに違いない。この意味で、日中の社会学研究も新たな歴史的な展開を迎えているといえよう。
私は、改革開放以降の最初の社会学専攻の中国人留学生として、1983年に来日し、日中社会学会の設立から今日まで、この学会とともに成長してきた。初代会長の故福武直先生は、設立大会での挨拶で、「中国の社会変化を見極める現地調査」、「若手研究者の育成」、「日中両国の学術交流」という三つの課題を提起された。
その後これは学会の精神になり、20年以上、2世代の社会学者を励ましながら、現在、実りつつある段階に入っている。2009年、本学会に関係する日中両国の会員が執筆した『日中社会学叢書』(全7巻)が明石書店により出版された。無論、この叢書にはまだ議論の余地も多く残されているが、本学会の三つの精神を具現するものとして、21世紀の日中社会学会の飛躍にとって重要な礎石になると信じている。この場を借り,学会を設立した故福武直先生,学会を育てた歴代会長の青井和夫先生,宮城宏先生,根橋正一先生,中村則弘先生、及び学会活動を精力的に支えてきた歴代の理事の皆様、積極的に学会活動に参加する会員の皆様に心から感謝の意を述べたい。
本学会は、これまで20数年にわたり、三つの精神をもって地道に現地調査を重ねながら、日中両国に多くの若手研究者を育て、両国の社会学者の間には深い信頼関係と研究ネットワークが構築されてきた。学会として、たとえるなら、少年時代を過ぎて、活発な青年時代に入っているといえよう。そしてまさに今この時期、20世紀に近代化した日本の経験と21世紀に興起しつつある中国社会の諸事象を前にして、この歴史的展開は、本学会の発展に対して大きな可能性を与えてくれるものである。
それはなぜならば、社会科学の発展は社会事象に基づいて構築されたものだからである。19世紀前半の欧州に発生した産業革命に伴う社会変動と19世紀後半からのアメリカ新大陸の興起は、K.マルクス、M.デュルケーム、M.ウェーバーなどの社会科学の巨匠を生み、欧米社会科学の発展に大きく貢献した。今後、アジアの全体的な発展に伴い、これまでの欧米社会とは異なる社会事象の展開を如何に読み解くかは、21世紀の社会科学の新たな発展に大きく繋がることになるであろう。
こうした状況の中で、本学会はこれまで以上に行動力と想像力が求められる。本学会の三つの精神を継承しながら、会員の力を結集し、学際的に、中国、日本、さらには他のアジア社会の変化の脈動を的確に掴んだうえで、その普遍性と独自性に関わる理論的研究をさらに深め、21世紀の社会科学の新たな発展に寄与しなければならない。これは、会長としての責務だと考えている。
初めての中国人の会長として、バトンを引き継ぐことに対して、歴史的責任とともに力不足も切実に感じている。今後、会員の皆様のご協力をいただきながら、力を尽くしていきたい。