日中社会学会会長 南 裕子(一橋大学

このたび第8代の日中社会学会会長を務めさせていただくこととなりました。昨年度までは庶務担当理事(事務局)を担当しており、決してよいことではありませんが、学会運営にも随分長くかかわってきたことになります。ただ、事務局としては、学会のルーティン化した活動をいかにこなすかといういわば目先のことに追われてしまっていた感があります。それは、近年、本学会が「持続可能な学会運営」という大きな課題に直面しているためです。

 私自身もそうですが、学会理事の方々も本務校での様々な業務が増える一方で、意欲はあっても学会のための時間を捻出することが容易ではない状況にあります。しかし、そうした中で、選出されたことに対して高い責任感を以て学会運営に携わってくださっています。私自身が学会にコミットしてきた最大の理由は、院生時代に入会して今日まで、日中学会で多くを学び、研究仲間と出会えたことへのいわば恩返しのような思いです。

  しかし、恩や責任感に依存するだけでは、組織は限界を迎えるでしょう。何か新しい創造ができる場として、役員も含めた各会員が日中社会学会にかかわることを楽しみ、意義を感じられるよう、学会を活性化していく必要性を、現在ますます強く感じています。「持続可能な学会運営」は依然として課題ではありますが、それ以上に、何のために持続可能性を追求するのかを見失わぬよう、あらためて気を引き締めて、会長の職にあたらせていただく所存です。

  また、昨今、中国をめぐっては、国際関係やその国内政治(統治)をめぐり、我々研究者のスタンスをも問われるような厳しい状況も確かに存在しています。しかし、ここで我々の原点に立ち返ってみたいと思います。それは会則の第2条にある「本会は、日中両国の社会学界の交流を図り、両国の社会学の発展に寄与することを目的とする」ことです。

 私は、この「交流」の前提として、日中社会学会会員には、次のような共通する中国研究の姿勢があると理解しています。それは、出発点となる問題意識はさまざまですが、中国社会に深く分け入り、観察し、中国の人々と対話を重ねながら、自身の中国理解の枠組みを構築し、さらには現代社会への省察を深めようともがいていることです。そして「交流」とは、このようにして得られた研究成果について、学会メンバーのみならず、中国の社会学研究者とも真摯に学術的な意見を交わしあうことです。そうすることによって、議論に参加する人々が、それぞれに、問題をより的確に把握、分析する力を高めることができ、自らを相対化する新しい気付きを得られます。そうして得られたものを、次には、教育や出版の形で、学会の外に向けて発信することが目指されるのです。

 会則の文面では、「両国」とありますが、排他的になる必要はありません。会費を納入してメンバーとなる組織ではありますが、一方で、これまでのように、目的を共有する人々による境界の曖昧な開かれたコミュニティでもあり続けたいと思います。

 以上のような思い・理念を、本学会の各種活動において実現していきたいと考えています。一言でいえば、研究の場として、その土俵の充実であり、それは、前会長である首藤明和先生が目指されていた方向性の継続であると認識しています。

  具体的には、以下の3点にまず重点的に取り組みたいと考えています。

 ①学会誌『日中社会学研究』の特集、そして学会大会シンポジウムの企画の一層の充実のための方策の検討。担当理事間の連携等の組織的な問題と共に、学会としての研究活動の強化が必要とされます。

 ②研究会活動の活性化。上記①につながるよう、学会として戦略的に研究会活動をより活発に展開することが求められると考えます。また、若手研究者育成のための研究会開催や会員の研究プロジェクトの成果発表のプラットフォームとしての機能を本学会が持つことができればと思います。

 ③この数年で中日社会学会専門委員会との学術交流が定着してきました。専門委員会の方々にも上記①や②に参画していただくようなことも含めて、今後の交流を一層強化したいと考えています。

 日中社会学会という組織は、他学会と比較すると、会員同士がフラットな関係にあり、モノが言いやすい、議論をしやすい特徴があるように思っています。会員の皆さんにおかれましても、入会履歴の長短にかかわらず、いろいろなアイディア、企画を出していただき、そしてその実現のために共に汗を流していただければ大変嬉しく存じます。 学会運営へのご協力のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。