−その社会的文脈に関する試論−
藤本 憲一(武庫川女子大学)
「大ge大」という大胆な漢字表記をもつ携帯電話、「BP机」という擬音語表記をもつポケットベルは、香港・シンガポールといった「ポケベル・ケータイ先進国」だけでなく、中国大陸においても急速に普及しつつある。
携帯メディアの普及については、いくつかの側面から説明が試みられてきた。
1)軍事(治安)的説明
<例>中華民国(台湾)においては、「世界の電脳工場」にもかかわらず、自国製の携帯メディア生産が禁じられ、輸入に依存していたため、普及が遅れたのではないか。
2)経済的説明
<例>香港・シンガポール・日本のように、一人当たり国民所得が高い国では、家計における個人通信費が向上し、携帯メディアの普及が進んだのではないか。
以上のような説明図式の妥当性は疑えないとしても、さらに社会学の立場から、以下3つの「メディア環境論」「空間距離学」「比較文化論」的枠組を検証していきたい。
(98年夏・秋に質問紙調査・現地聞き取り調査を実施の予定)
3)メディア環境論的(ネットワークvsパッケージ)的説明
<例>中国大陸では、固定電話・公衆電話の回線敷設コストが高い。そのため、ちょうど「ネットワークメディア」であるテレビを補完し、凌駕する勢いで、「パッケージメディア」としての触CD机(VCDを媒体としたカラオケ再生機)が普及したように、有線の固定電話を補完する意味で、「疑似パッケージメディア」として携帯メディアが普及しつつあるのでないか。
4)空間距離学(個人テリトリーのproxemics)的説明
<例>香港やシンガポールは、地理的に狭い領域に人口が集積し、個人間距離が小さいため、プライヴァシー確保のために、携帯メディアが普及したのではないか。
5)比較文化論的説明
<例>クラブ・カースト・クラン・家元といった「縁」の形成において、携帯メディアは、属地的でなく、属人的な社会的文脈において、より普及するのではないか。