中国における格差の現代的特徴と問題

鈴木未来(立命館大学大学院社会学研究科博士後期課程)

(報告要旨)

0.はじめに(本報告のねらい)

本報告では今日の中国社会の発展を考察する上で避けて通ることの出来ない格差の今日的状況を探るため、格差にかんする研究状況を整理しながら、多様化する格差の実態と格差の存在がなぜ問題視されるのかを研究の到達点を踏まえて考察した。さらに格差の拡大という観点に立って改革開放の過程の検証し、農村と都市の二元構造に起因するものとは異なる格差の現代的な特徴を示した。

1.格差研究の現在

 格差を扱う研究として、農村から都市へ向かう流動人口(民工潮)の実態解明を目指す「人口研究」が挙げられる。流動人口の実態から生じる社会問題を扱う分野としては、「階層分化論」や「社会流動論」といった、仮説に基づいてその原因を検証していく研究が挙げられる。その他に個人および産業、集団別にどのような所得分配がなされているかを探る「所得分配研究」も挙げることができる。
格差を扱うこれらの研究は、改革開放政策が所得の部門では農村・都市とも順調な伸びをもたらしたものの、人口や資源配置にかんしては農村や都市の区分を超えた“地域間格差”の拡大をもたらし、単純な所得格差の把握では計りきれない各種資源に対する接近度において、格差が潜在的に存在し続けていることなどを明らかにしてきた。

2.格差の現代的特徴−改革開放の過程において

 これらの研究成果を踏まえ、本報告では改革開放期における格差拡大の実態を歴史的に捉えながら格差の現代的特徴に迫った。第一に“農村内格差”の拡大が挙げられる。農村改革の柱である生産請負制は、旧人民公社からの生産隊の独立が基本であったことから、生産請負制の普及が個人経営をただちに広めたわけではなかった。また、必ずしも条件のそろった豊かな地域から始まったわけでもなく、市場化の進展度合いによって、一方では農業経営の大規模経営化、他方では共同化が進んだ。さらに二重価格制が導入されると、過剰生産や生産財の高騰という市場化ゆえの問題が頻発し、農業経営における変化の度合いにばらつきが生じた。また郷鎮企業の興隆といった純農業生産だけでない農村の出現といった要因も重なることで、“農村内格差”は拡大傾向を持続してきたといえる。
また“農村内格差”が拡大することで農村内労働力の一部が農村外へ流出し、農村と都市の区分を越えた“地域間格差”の拡大が引き起こされた。一般に流動人口動態の正確な把握は容易でないが、大都市に向かう長距離移動や都市近郊者出稼ぎといった距離を軸にした移動の把握や、人的ネットワーク(地縁・血縁など)や政治力ネットワーク(党員・幹部)など関係を軸にした移動の把握を通じて、流動人口は必ずしも農村から都市へという直線的な動きを示してなく、学歴や情報収集能力による差や貧困層は移動の機会が限定される、近年は逆に帰農現象もみられる、というように流動人口の実態は地域ごとにばらついていることが明らかになった。
 “農村内格差”が拡大し、さらに“地域間格差”が生じるという過程から、地域主義の台頭といった従来の農村と都市の二元構造では起こり得ない格差拡大が引き起こす新たな社会問題を見出すことが出来る。また生産における自力更生的要素の持続や社会保障制度の不備という集団化時代から継続する生活条件を考慮すると、従来の“階層間格差”(農民・都市労働者・幹部の各階層間の)は今日においても温存され続けていることも同時に明らかになる。これに改革開放に伴う経済発展が加わることで、階層間の物的あるいは人的資源の接近度に大きな開きが生じている。“階層間格差”の拡大は、先に挙げた“地域間格差”に由来するような地域主義の台頭にも影響を及ぼしている。このように“地域間格差”と“階層間格差”は複合的に結びついており、人々が新たな生活機会を選択する際にさまざまな制限をもたらす要因となっている。

(以下項目のみ)

3.地域間格差・階層間格差を捉える実証研究の試み(当日の報告では省略)

4.おわりに−格差拡大によって生じる問題とその解消に向けた視点


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