鄭楊「中国都市部の親族ネットワークと国家政策−3都市における育児の実態調査から−」、
『家族社会学研究』Vol.14No.2、2003年
これまで,中国の都市部の家族・親族の親密な関係については,「家本位」,「世代の継承を重んじ,家族や親族を重視する伝統」によるものという文化的な視点からの研究が行われてきた。しかし,伝統的な家族・親族関係を支えてきた従来の小農経営による生活方式が今日の都市部の家族・親族に適用されないにもかかわらず,伝統的で親密な家族・親族関係が今も存続することについて国家政策を含む社的要因から解明する研究は行われていない。
そこで,本論では,文化的要因以外に,1949年以後の国家政策−人口政策,戸籍制度の要因によって中国都市部の家族・親族が近くに居住しており,相互援助・協力するネットワークが形成されるという点に着目した。さらに、筆者は2001年8月から9月にかけて,3都市の家族・親族による育児の実態を通して検証した。
分析結果として、(1)政策の違いによる親族ネットワーク構造が違うこと,(2)居住距離が日常的交際の頻度に影響すること,(3)不利な地理的条件にもかかわらぬ家族・親族の間の相互協力・援助,(4)育児における父母共同の参加と,父系・母系両方の親族の参加,という四つの今日の中国家族・親族ネットワークによる養育の特徴を見いだすことができた。
すなわち、相互協力・援助といった中国の伝統的な家族・親族の親密な関係が現在も都市部で続いているが,それはけっして土地に定住する小農業経営や先祖の祭祀,家父長制によるものではない。都市戸籍と農村戸籍を区別し、都市と農村の間の移動を制限した戸籍制度は、同じ都市内での通婚や親族の絶対数を増やし、密かな親族ネットワークが都市内に堆積する現象を作り出した。また、地域によって国家が違う政策を取っていることにより,親族ネットワークの構造と機能のパターンが異なることも証明できた。
近年,戸籍制度に関する改革が進行しつつあり,人々の移動の自由度が昔よりはるかに高くなっている。しかし,「人口の合理的な流動を図る」という性格が維持されると殷志静,郁奇虹(1996)の指摘のように,戸籍制度の改革があっても,当面は,先進国のような自分の意志による自由な社会移動は戸籍制度により大きく制限され,ある土地に固定されるだろうと予想される。したがって,家族・親族ネットワークもしばらくは存続してゆくであろうと予想される。
さらに,社会福祉の未発達と社会主義の保障制度の削減により,いっそう家族・親族の養育と扶養の機能が強められるのではないかとも考えられる。また,現在も施行中の「一人っ子政策」によって,今後,主幹家族がますます増え,家族・親族関係をさらに強めることになるであろう。それらの点についての解明は今後の課題にしたい。(鄭会員による要約)